絆ワークスタイル Vol.6
つくるヒトと食べるヒトをつなぐコト

高島市の里山のふもと。有機栽培で育ったみずみずしい野菜を食卓に届ける、”地産地消”の取組みが行われています。絆ワークスタイルの第6回目は、こだわりの野菜を”地域”で消費する仕組み作りに力を注ぐカフェのオーナー岡野さんにお話しを伺いしました。

「あるものをあるがままに」

高島びれっじの奥まったところ。石畳を歩いていくと民家を改修した懐かしい雰囲気のある建物と、味わいのある看板が迎えてくれました。それが今回、訪れたワニカフェです。

あかがね色の看板と赤のケトルが風景にやさしく馴染む先に…
あかがね色の看板と赤のケトルが風景にやさしく馴染む先に…

近くの畑や田んぼで育った有機野菜、新鮮な卵、そしてびわ湖の魚。「あるものをあるがままに」 ― そんな想いをベースに調理される滋味豊かな料理を味わうため、県内のみならず県外からもたくさんの方が足を運ばれています。

また、料理を提供するだけではなく、生産者と消費者をつなぐ様々な試みを進められており、その一つが、今回紹介する「高島マーケット」です。

お話しを伺ったワニカフェのオーナー、岡野さんは高島へ来る前まで京都のレストランで調理師をされていましたが、奥様のご実家があることもあり、この自然豊かな高島へ移り住まれました。そして、2年半前の2013年春にお店がオープン。

「元々は農家がやりたいと思って、高島に来ました」と語る岡野さん。
「元々は農家がやりたいと思って、高島に来ました」と語る岡野さん。

まずはワニカフェの名前の由来を聞いてみます。

「つくる(=生産者)と食べる(=消費者)2つのワ(輪)がつながるカフェを目指して、というのが由来です」

生産者から直接手に入れた安心安全な食材をつかった料理を提供することで、「つくるひと、食べるひと」をつなぐこと―これは高島に移り住まれる前より、長年思い描いて来られたプランでもありました。

里山の自然といのちを”地域”でいただく。

お店を運営していくうえで、地元の農家さんの存在は必要不可欠。特に有機農家さんが作物を作り続けられる仕組みを作ることも重要な役目と考えていた岡野さん。 

お店のオープンから半年が経過し、経営にも慣れてきた頃、高島マーケットの試みをスタートしました。

ワニカフェ内に設置された無農薬野菜の販売コーナー。馴染みのあるもの、めずらしいものが並ぶ
ワニカフェ内に設置された無農薬野菜の販売コーナー。馴染みのあるもの、めずらしいものが並ぶ

高島マーケットとは、農薬や化学肥料を使わない有機栽培でつくられた安心安全な野菜を、地元の消費者に届ける”地産地消”の仕組み。

岡野さん自身が毎週一回、農家さんを一軒一軒まわり収集した野菜は「ステーション」と呼ばれる中継所まで届けられます。利用者は毎週、隔週と自身の利用頻度に合わせて、最寄りのステーションにまで引き取りに行きます。

ステーションを設置することで、収穫したての野菜を新鮮なうちに届け、受け取ることができ、また配達するコストもかからないため、提供する側にも提供される側にもメリットが生まれます。

ステーションは現在市内の飲食店を中心に5つ設置されています。最近では、お隣の大津市北部から声がかかり、それを受けて新たなステーションを一つオープンしました。

現在、野菜を提供している有機農家さんは平均10軒ほど。それら農家さんから、目安として4人家族が1週間で使いきる量の野菜が、利用者一軒に対して提供されています。

美味しい、嬉しいと評判。

有機野菜は一般的にスーパーに並んでいるものと比べ不格好で虫がついていることもありますが、利用者にはそういった事に理解のある人がほとんどです。

利用者の声はどうでしょうか?

「特に根菜類など土の中のもの、根っこのものなどはスーパーのと比べると全然味が違うと仰います。また、市場に出回らない野菜なども手に入るので喜んでもらっています。栄養をつけたいという理由で、妊婦さんの利用も多いですね」

市場に出回らない野菜の一つ、マコモ。お年寄りにはなじみのあるものだそうで。「神聖な野菜」としても知られている。
市場に出回らない野菜の一つ、マコモ。お年寄りにはなじみのあるものだそうで。「神聖な野菜」としても知られている。

こだわり抜いて作られた貴重な野菜たち。生産される量も限られています。そのため、口コミやステーションにチラシを配布するくらいで、今のところ大きな販促活動はされていません。その理由を岡野さんはこう言います。

「収穫できる量を考えると、今の状態からいきなり大きくしていくのは難しいです。今後、事業を拡大するには、生産者が安心して作付面積を増やせるよう、大きなロットで野菜を販売できる販売先を開拓していく必要があると思っています。一軒の農家さんだけでなく、みんなが集まれば販路開拓にもメリットがあると思います」

地産地消の輪を広げるこの取組に、課題はまだまだあるのが現状。しかし、その分、可能性も未知数です。実際始めてみて、農家さんにはより前向きに取り組んでもらえていると感じています。

「有機野菜を扱っているお店に農家さんを紹介して喜んでいただけたこともありましたし、一人で野菜を育ているおばあちゃんなんかは、これを始めて話し相手ができたと喜んでもらっています」

“ひと”と“もの”の繋がりの先には。

高島マーケット以外にも、様々な試みが進められています。

その一つが、「湖地考知」(コチコチ)というプロジェクト。農家さんの田んぼでの田植え、稲刈り体験に始まり、農家さんに直接教わる味噌や醤油づくり、子供たちが体験を通して地元の猟師の仕事を学ぶワークショップなど、”食”を通して高島の魅力を生産者と一緒に考えるイベントを定期的に開催されています。

「生産者にスポットを当てるのがこのプロジェクトの趣旨です」

実際に生産者と言葉を交わし、生産の現場を見たり体験したりできる機会を設けることで、消費者に”食”についてよりよく知ってもらうことを目指しています。

カフェ内に、地元の若い作家さんの作品が置かれたギャラリーを設置。作品を常設して販売できる場所を持っていない作家さんも多く、大変、喜ばれているとのこと。 
カフェ内に、地元の若い作家さんの作品が置かれたギャラリーを設置。作品を常設して販売できる場所を持っていない作家さんも多く、大変、喜ばれているとのこと。 

静かながらも、常に一歩先を見据えている ― そんな印象のある岡野さんですが、他にも計画されていることはあるのでしょうか?

「今、考えているのは、ゲストハウスですね。レストランだと、料理を作ることに時間を取られ、お客さんと会話したり、つながる時間があまりありません。でも、ゲストハウスならゆっくりお客さんとお話することができます」

聞いていて、岡野さんのお話しの共通項は、“もの”であれ“ひと”であれ、”つながる”ということに気づきます。

最後、未来に向けたビジョンをお伺いしました。

「ここ高島がもっとにぎわってほしいと思います。観光で訪れる人だけでなく、移住してくる人も増えてほしい。そして、ワニカフェがそういう方たちの働ける場所となるように発展していきたいと思っています」

“ひと”と“もの”が、ここワニカフェを介し結ばれ、新たな“こと”が生み出される。里山の豊かな自然を背景に、紡ぎだされるつながり。それらが生み出す未来への種。将来、どんな“芽”が出てくるのか、今後の展開が楽しみです。

2015.09.WANI - 22

取材後記

料理人になる前は、大阪で染色の仕事をされていたという岡野さん。染め物と違う点は何かをお聞きしたところ、「作るという行為においては一緒だけれど、料理にはもてなす喜びがプラスされている」とのこと。仰る一言、一言にぶれない強い芯を感じます。お話しだけでなくお料理も頂いてみたいと思っていたところ、願いが通じたのか、後日、某イベントで出店中の岡野さんご夫婦を発見!滋味あふれる鹿肉の味わいが心に深くしみわたりました。ごちそうさまでした。