絆ワークスタイル Vol.3
みんなでつくる「地方創生」 ~ 地元の「ええもん」を全国へ

日本全国に押しよせる人口減少・過疎高齢化の波。それに立ち向かうべく「地方創生」の試みが各地で盛んに行われています。そのなかでもキラリと輝きを放つ、官民一丸となった米原市の取組み「オリテ米原」。地元商工会が特産品を販売するネットショップ運営に携わる、このユニークな取り組みは、今、全国から注目を集めています。絆ワークスタイル取材第三回目は、このオリテ米原を運営されている米原市商工会を訪れました。

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「新幹線だけちゃいますよ」からはじまった。

米原駅を降りて、琵琶湖に向かって歩くこと5分ほど。今回の取材先である米原市商工会に到着します。梅雨の合間の青空に溶け込むかのようにはためく青いのぼり。澄んだ空と豊かな水を湛える琵琶湖を連想させるこの鮮やかなブルーは、全国でもめずらしい、商工会が運営するネットショップ「オリテ米原」のトレードカラーです。

ロゴは多くの鉄道路線や高速道路が交差する様を水引で表現。
ロゴは多くの鉄道路線や高速道路が交差する様を水引で表現。

‘ネット販売シロウト’と称しながらも商工会が主体となり、地元の特産物を扱うこのオリテ米原をオープンさせたのが今年4月。交通の要所として知られる米原市が、新幹線は停まるが、他地域への通過点としか認識されていない現状を打破し、ぜひ‘降りて’この米原を知ってもらいたいという願いから、「オリテ米原」と命名されました。

このネットショップでは現在、26の市内事業者から集めた食品や工芸品を中心に、約200種類の商品が販売されています。積極的なPRが効を奏したこと、また地方創生事業の一つである「ふるさと割*」が重なったこともあり、オープンからわずか3か月で売上は6倍に。当初は市内からの注文が圧倒的に多かったそうですが、今では全国から注文が入るようになったといいます。
*ふるさと割:政府の地方創生予算による「ふるさと割事業」のこと。地方の特産品をネットや実店舗にて購入する消費者に対し助成を行うことにより、消費を促し生産元の地方経済を活性化するための交付金事業

その急成長の秘密、そしてこれからの目標について、オリテ米原の広報を担当する米原市商工会、高木さんにお話をおうかがいしました。

市の魅力を発信する「シティーセールス」の一環として。

まずは、ネットショップを商工会が運営することになった経緯からお聞きします。「現市長が就任当初から温めていたのが、市の特産物を扱ったネットショップを立ち上げる、というアイディアでした」と、高木さん。同時期に進められていた、米原市の‘シティセールス’計画の制定と融合するかたちで、全国でもめずらしい、行政が主導するネットショップ構想が動き始めました。

米原市商工会にて、広報担当の高木さんにインタビュー。
米原市商工会にて、広報担当の高木さんにインタビュー。

この‘シティセールス’というフレーズ。‘シティプロモーション’とも呼ばれますが、文字通り‘都市を宣伝する’という意味。市の魅力を発信しイメージを向上させることにより、人口の定着や流入、観光客誘致など地域経済の活性化を狙うものです。人口減少や過疎高齢化の課題を解決するために、昨今、全国の市町村で様々な取り組みが進められています。

「米原市シティーセールスプラン」のポスター。市民にも存在を知ってもらおうと広報などで情報を公開。
「米原市シティーセールスプラン」のポスター。市民にも存在を知ってもらおうと広報などで情報を公開。

米原市も‘シティセールス’を進める市町村の一つ。滋賀県最高峰の伊吹山を抱き、琵琶湖への一大水源地域である米原市は、今年、合併後市政10周年を迎えます。その節目に市の新たな価値創造に向け、「びわ湖の素 米原」をキャッチフレーズに、「住み続けたいまち、訪れてみたいまち、住んでみたいまち」のイメージを市内外へ積極的にアピールする取り組みが開始されています。その流れから、市の特産品をもっと効果的にPRすべく、市が商工会へ委託するというかたちでオリテ米原は誕生しました。

ネット販売でも、出店者との‘心’の距離は近く。

ネットにつながっていれば海外からも様々な商品が選べて買えるネット通販。‘お取り寄せ’と称し、日本全国から珍しいもの、美味しいものを手に入れる人も増えてきました。

通常の‘お取り寄せ’ネットショップと比べて、違う点はあるのでしょうか。「行政が関わっている点が全国でもめずらしいと思います」と高木さん。今までにも行政が関わるネットショップはありましたが、成功している例は少ないといいます。オリテ米原の強みは?「私たち商工会が運営しているので、出店者さんとの連携が取りやすいところはあると思います」。出店する事業者さんのなかには、すでによく知った方もいるので、そうした人たちとのの距離が精神的にも近い、というのが強みということでしょうか。

商品とそれをつくった人をよく知る、をモットーに。

次に、出品に至るまでの道程について説明していただきました。「市内事業者さんの出店が正式に決まるとします。その後、定例会議で事業者さんや商品への取材方針やPR手法について念入りに話し合いを重ねます」。この会議は数時間に及ぶこともある、と高木さん。

生産者のところへ出向いての取材風景。この日は漬物加工所での梅干し袋詰めが行われていた。
生産者のところへ出向いての取材風景。この日は漬物加工所での梅干し袋詰めが行われていた。

会議は、商工会から高木さんと集荷を担当するスタッフ、撮影やデザインを担当する市内のデザイン会社、そして米原市役所からも数名職員が参加し、行政と民間、商工会が文字通り「一丸となって」話し合う貴重な時間。商品を効果的にPRするためには、「試してみないと良さを伝えられない」ということで、過去には伊吹山の麓でつくられるジェラートの食べ比べや、昔から地元の人に愛されるお豆腐やさんで豆腐作り体験をしたこともありました。

受注から発送まで、全てを請け負う。

こうした工程を経て、商品は晴れてネットショップでお披露目されることになります。さて、ここで販売の仕組みについておうかがいします。現在、商品数は200点ほど。オープンからこの短期間で倍近くに増えたそうですが、このようなたくさんの商品数を取り扱うにあたり、受注から発送までどのように処理されているのでしょうか。

発送用の段ボールや袋のデザインは、全国でも活躍の場を広げる市内在住の切り絵作家、早川鉄兵氏によるもの。
発送用の段ボールや袋のデザインは、全国でも活躍の場を広げる市内在住の切り絵作家、早川鉄兵氏によるもの。

「受注から決済までをヤフーショッピングで行っています」。オリテ米原のサイトから商品を選び決済のボタンをクリックすると、ヤフーショッピングに飛び、そこで支払を行う仕組み(ヤフーショッピング上のオリテ米原のページからでも直接購入は可能)。注文を確認すると、商工会スタッフが出店者のもとまで商品を引き取りに行きます。複数の出店者の商品がまとめて注文されることも多いので、それら全てを集荷するにはもちろん手間と労力がかかります。しかし、作業はそれで終わりではありません。一つの箱にまとめて梱包し、お客さんのもとへ発送するまでを商工会が一貫して行っています。

出店者、購入者からも評判は上々。

箱詰めの様子。売れ筋は、はちみつ、ジェラート、名刺入れ、ハムなど。
箱詰めの様子。売れ筋は、はちみつ、ジェラート、名刺入れ、ハムなど。

きめ細やかな対応や、丁寧なPR手法が評判となり、オープン時は出店者数が15店舗を数えるほどだったのですが、それから3か月足らずで26店舗にまでなりました。希望しても出店まで3〜4カ月待ちといった状況。高木さん曰く、「行政が関わっているという信頼感や安心感もあるのか、たくさんの出店希望をいただいています」とのこと。

もちろん全ての商品がまんべんなく売れているわけではありません。しかし、出店者さんからは「こんなに売れるとは思っていなかった」、と驚きの声を聞くことも多くなりました。市内の購入者からの評判も上々で、「こんなに美味しいものが米原にあったなんて知らなかった」と言われ、スタッフも嬉しかったそうです。

費用を有効に、効果的なプロモーションを実現。

予算は潤沢にあるわけではありません。限られた予算のなかで、工夫しながらの宣伝活動が行われています。

企業が広報に利用することも多いtwitterやfacebookなどのSNS。オリテ米原でも、facebook において、取材風景や商品紹介などの情報を積極的に発信しています。積極的なPRで、地元のラジオ局やTV局での出演を皮切りに、全国の様々なメディアにも取り上げられる機会が増えています。最近では、全国雑誌「ソトコト」の8月号でも紹介されました。

facebookのオリテ米原公式ページ。取材風景や商品の紹介、イベントへの出店状況などを頻繁に投稿し情報の発信につとめる。
facebookのオリテ米原公式ページ。取材風景や商品の紹介、イベントへの出店状況などを頻繁に投稿し情報の発信につとめる。

新しい展開を生み出し、今後の流れをつくる。

順風満帆に見えるオリテ米原。課題はあるのでしょうか。また今後の目標は?「今は毎日が精一杯という感じですが、やはり一番の課題はふるさと割りが終わる来年度以降をどう乗り越えるかです」。ネットショップを継続していくには、売上を伸ばすことが大切。そのために、「新しいことをどんどん取り入れ、継続して利用してもらえるネットショップを目指す」、とのこと。そして、新しい取組みは既に始まっていました。

それが、市内出店者とオリテ米原が一緒に取り組むコラボ商品の開発。国内製造にこだわった市内のシェラフ(寝袋)メーカー、ナンガと提携したオリジナル商品は、コラボ商品第一弾として製品化、現在販売されています。

オリテ米原限定「ミルキーウェイ」オリテのトレードカラー、そして市内を流れ琵琶湖にそそぐ「天の川」のブルーを表現。
オリテ米原限定「ミルキーウェイ」オリテのトレードカラー、そして市内を流れ琵琶湖にそそぐ「天の川」のブルーを表現。

「今後も‘オリテ米原にしかない’オンリーワンのものを作りあげ、ネットショップの価値を高めていきたいと思います。また、オリテ米原が特産品販売にとどまらず、ゆくゆくは米原の観光や商業のポータルサイトに育っていけば」、と未来に向けて抱負を語っていただきました。

市長の「市の特産品をPRしたい」の一言からはじまったオリテ米原の試み。その‘一滴’は、「琵琶湖の素」というフレーズのもと、今後はどんな‘流れ’をつくっていくのでしょうか。関わるみんなが連携しながらも、それぞれの持ち場で輝く。そこに暮らすひと、訪れるひと、そして新たに移り住みたいひとを包み込む「地方創生」が目指す一つのかたち。オリテ米原の今後の展開が楽しみです。

取材後記

子供たちがふるさとを誇りに思うきっかけに。

何を隠そう、私も米原市民。以前から取り組み自体は市の広報などで知っていましたが、取材に訪れるまで携わる人たちみんなのこだわり、想いは知る由もありませんでした。せっかく芽を結び始めたこのまちの大胆な試み。この取組みが今後たくさんの実をつけるよう、そして子供たちが自分の故郷を誇りに思うきっかけになるよう、一市民として応援していきたいと思いました。