スマイルキッチン 代表 苗村和子さん (東近江市)

絆ワークスタイル Vol.2
味とまごころで 地域に広がる笑顔の輪

地域に声に応えるかたちでオープンし、日々、お客さんの声を反映したサービスの改良、展開を試みる地域密着型の惣菜店兼レストラン。その地域でとれた旬の野菜をふんだんに使った料理の数々は、幅広い年齢層に受け入れられています。

スタッフの平均年齢65歳。年齢にとらわれない起業スタイルが多様化している現代ですが、今起業しようと思った理由や今後の目標、そして人気のヒミツをお聞きするため、2015年3月にお店をオープンされたスマイルキッチンの苗村さんを訪ねました。

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朝からにぎわう地域のお惣菜やさん。

八日市市街の大通りから少し入った路地を進むと、鮮やかな黄色の軒(のき)が目に入ってきます。それが、今回おじゃまするスマイルキッチン。到着したのは10時半少し前でしたが、屋内には既にお客さんと思われる人の姿がちらほらと見えます。

ここスマイルキッチンでは、この地域で採れた新鮮野菜を使ったお惣菜販売、野菜の直売、そしてお昼限定のバイキングレストランを行っています。

お昼のお惣菜を品定めするご婦人。歩いて来れる距離なので非常に便利とのこと。
お昼のお惣菜を品定めするご婦人。歩いて来れる距離なので非常に便利とのこと。

今年3月にオープンしたばかりのピカピカのお店に足を踏み入れました。「いらっしゃいませ!」と元気な声とともに目に入ってきたのは、たくさん並んだお惣菜やみずみずしい野菜。そして、レジすぐ横のキッチンからは、ジュージュー、トントントン、という音とともに食欲をそそる匂いが漂ってきます。

入るなり視覚、聴覚、そして嗅覚を刺激されましたが、味覚は少しお預けにすることにして…。代表の苗村さんに少しお話しをお伺いしました。

平均年齢65歳からの新しい船出。

店名の通り、笑顔がステキな苗村さん。ご出身は旧蒲生町(現東近江市)。まずは起業されたいきさつからお伺いします。

「もともとは農家の主婦達で栽培している農作物の直売所をしていました。そこで惣菜なども売るようになったのですが、週に2回営業していただけでしたので、これをもう少し拡大できないかと。」そんな思いでいたところ、ちょうど地域の商工会が創業塾を開催するとを聞き、迷わず参加することに。

創業塾では、事業計画書の書き方や、お金についての指導を受けることができ、実りの多い時間だったとのことです。また、何より開店後も記帳や広報活動など様々なフォローが受けられるので非常に助かっているそうです。

この時の調理担当は5名。機敏な動きで次々と作業をこなしていく。
この時の調理担当は5名。機敏な動きで次々と作業をこなしていく。

一緒に働くスタッフは近所の方で、直売所からの仲間です。通常は7~8名体制でお店のすべてを運営されています。平均年齢65歳。出勤は早朝六時。直売所当時のように、お母さんたちがそれぞれ丹念に育てた野菜を出勤とともに新鮮なまま運んできます。下ごしらえに始まり、調理、お惣菜のパッキング、バイキング、開店の準備と時間は飛ぶように過ぎていきます。バイキングに並ぶ品目の数も多く、日によって違いますが大抵20から30品目。手が休まる暇はありません。

老若男女に愛されるカギは「思い出」につながる味。

今年3月に開店後、地元メディアに取り上げられたこともあり、今では地元を中心にコンスタントにお客さんに来ていただけるようになったとのこと。中にはオープン時から、わずか3ヶ月足らず既に30回ほどリピートしているという方も。最近では、口コミの影響か、県内の他地域、また他府県からもお客様がやってこられるとのことでした。

実際、私たちがお店の一角でお話しをお伺いしている間でも人の往来が激しく、またそのお客さんたちの年齢層が広いことに気づきます。2、3歳の女の子をだっこした若いママから近所のお年寄りまで。みなさん、所狭しと並べられた商品を品定めしています。

揚げ物類から野菜の煮物までレパートリー豊富なお惣菜。右後方には野菜も販売されている。
揚げ物類から野菜の煮物までレパートリー豊富なお惣菜。右後方には野菜も販売されている。

「色んなお客さんがに来てもらっているのは、品揃えが多いからだと思います」と苗村さんがおっしゃる通り、確かに、惣菜コーナーを見渡すと、子供が大好きなハンバーグや唐揚げのようなメニューもあれば、昔ながらのお料理の数々。例えば、たけのこ、ぜんまいなどを使った季節の品。 また、丁子麩のからし味噌和え、エビ豆、赤こんにゃくなどの昔ながらの味。それぞれが、主張しながらもカウンターの上で上手く同居し、手に取ってもらえるのを待っています。

売れ筋を聞いてみました。「やはり一番は、草餅ですね。あんこから完全手作りです。お祭りの時に一度、千個注文があったときもありました」と言うほどの人気。次に続くのは巻き寿しだそうで、昔おばあちゃんが作ってくれたような懐かしい味が嬉しい、と言われるそうです。

お客さんとの会話から生まれる新しい可能性。

このお店をやっていて良かったと思うことはなんでしょうか。そう聞くと、「直接お客さんと感想聞くことが励みになります。直売所の時は、お客さんとあまり交流することはありませんでした」と、この日一番の笑顔で答える苗村さん。お客さんとの間に生まれる会話を参考にサービスの改良を行っているとのことですが、ある日そこから苗村さんは一つのアイディアを得ます。

「販売している野菜が午後を過ぎても残っているときは、2時過ぎくらいから近隣地域のお宅を回って販売します」近所には足が悪いなどで気軽に出歩くことのできないお年寄りもおられることを知り、その方たちの役にも立て、また野菜も売り切ることが出来るこの方法を始めたとのこと。最近では、スタッフの訪問を心待ちにする方もでてきました。またその方たちから口コミが広がれば、人の繋がりはさらに広がります。

更なる展開をめざすそのパワーに、地域活性のヒントが。

最後に、今後の目標をお聞きしました。「当初、思っていた以上にバイキングにお客さんが来ていただいていますので、お待たせしないようテーブル数を増やさないといけないですね」それに加え、スタッフの確保やお店のPRなど、お店を安定して運営していくためにまだまだやることは山積しているとのことでした。

そうこうしているうちに、バイキングの開始時間が迫ってきました。その前に少しだけ厨房を見せていただくことに。

鯖寿司の下準備。今では週に2回定期的に提供するようになった人気メニュー。
鯖寿司の下準備。今では週に2回定期的に提供するようになった人気メニュー。

インタビュー中はとっても優しいお顔の苗村さんでしたが、厨房に入ったとたん凛とした表情に一変します。きびきびとした足取りで冷蔵庫から取り出したものは大きな鯖。鯖寿司の仕込み開始です。お母さんたちの動きが増々機敏になっていくにつれ、厨房の温度も高くなっていきます。

明るい店内で、楽しい会話もはずむ。この日は特にリピーターのお客さんが多かったようだ。
明るい店内で、楽しい会話もはずむ。この日は特にリピーターのお客さんが多かったようだ。

若い世代の働き手不足に伴い、近年、人生経験豊富で技術や知識をもった高齢者の活躍が望まれています。ですが、お店の発展に積極的に取り組む苗村さんたちに「高齢者」や「お年寄り」と画一的に呼ぶことは憚られます。その地域に住む人々のことを誰よりも知りそして何が求められているかを感知できる、地域を引っ張る存在でもあるのです。

幅広い世代の人々が一緒になって地域を明るくする、そんな多様性のある社会。その可能性がここスマイルキッチンにはあると感じました。

こうして、今日も苗村さんの周りには笑顔の輪が広がっていきます。

取材後記

近くにあったらいいなあ、と思わせるお店。

お味の感想は、実際に足を運んでもらうことにして…。近くに座ったグループの方にお聞きしたところ、ほとんどの方がリピーターとそのお友達という構成だったということが満足度の高さを物語っているかと思います。これで1000円(取材当時)は確かにお得です。

バイキングではあたたかい雰囲気の陶器にもられたおかずが並ぶ。 合間を見た補充もスムーズ。
バイキングではあたたかい雰囲気の陶器にもられたおかずが並ぶ。
合間を見た補充もスムーズ。

値段的にも味的にも満足でき、何より作る人の顔が見えて会話することもできる。食の安全が叫ばれているなか、こんな安心感はありません。そして、元気で親しみやすいお母さんたちの魅力。近所にあったらいいのに…と思わずにはいられませんでした。